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修理屋スグルと戦慄のパーキングミッション⑤悪魔と天使

2022-01-07
確かに、使用中に空気が減ったことでブレーキが効かなくなったことは理解できた
 
それでブレーキが効かなくなってクレームになったことも納得できた
 
それなら空気を入れればブレーキがまた効くようになるなー
あの時のオレは本当に頭がどうかしていた
修理屋としての誇りとプライドを取り戻すことだけに脳の全てが支配されていたのだ
 
「幸い利用者も営業もブレーキが効かなくなった原因にはまだ気付いていない」
「それなら空気を入れてしまえばまたブレーキは効くようになる」
「それで全て元通りだ」
 
試しに空気を入れてブレーキが効くか確認してみた
タイヤはブレーキで固定されて全く微動だにしない
ブレーキがしっかり効いた状態に戻っている
 
「どうだしっかり効いているじゃないか」
「この状態で返却してしまえば今回のクレームすら無かったことに出来るぞ」
「利用者と営業がただ勘違いをしていただけだ」
「故障などしていない」
「ブレーキはずっと効き続けていたのだ」
 
オレは失敗などしてはいけない
オレは誇り高き修理屋スグルなのだ
 
………………………
………………………
 
あの偉そうな営業に何も問題はなかったと車いすを返却してやろう
 
そもそも彼が全て悪いのだ
彼がオレから修理屋としての誇りを奪い、悪魔に変えてしまったのだ
 
どうやって報告しようか?
まずは自分で状態を確認できるようになれとでも言ってやろうか?
責任感の話や業務の邪魔をするなとも言っていたな
それもそのまま倍返しにして言ってやろう
思い描いただけでニヤニヤがとまらない
 
修理屋としての誇りとプライドを奪った罪を、地獄の底で悔い改めさせるのだ
 
………………………
………………………
 
そうと決まれば早速営業に報告だ
どこにいるんだ
 
探し回ってようやく見つけた
どうやら誰かと電話をしているらしい
こんな時に電話とはのんきなものだ
まーもうすぐ自分がどうなるか知らないのだから勘弁してやろう
 
電話の声が聞こえてきた
 
「誠に申し訳ございませんでした」
「今回の件でお怪我が無かったのがまず何よりです」
「至急修理を行い、完全な状態を行い再納品させて頂きます」
 
オレが修理した車いすの所有者と話しているようだ
 
周りの社員からの話し声も聞こえる
「クレームらしいですよ」
「よりによって○○さんらしーですよ」
「○○さんを怒らせちゃったんですか?」
 
どうやらかなりのクレーマーらしい
 
「前の営業は〇〇さんを怒らせたことで何回も謝罪に行っていたみたいですよ」
「可哀想に!!まだ担当になったところなのに…」
「今回は何回呼び出されることやら…」
 
営業はまだ電話で利用者の話を聞いているようだ
 
「本当に申し訳ございませんでした」
「今回の件で○○様の信頼を失わないように誠心誠意対応させて頂きます」
「どうか我が社にもう一度だけチャンスをーーー!!」
 
………………………
………………………
 
オレの中に落雷でも落ちたかのような衝撃が落ち、思わずその場を離れた
 
彼は確かに戦っていた
現場という戦場の中で、弾丸にまみれながら立派に戦っていたのだ
しかも会社のためにだ
自分のメンツではなく、会社の代表として必死にもがいて戦っていたのだ
 
「それに比べて、オレはなんなんだ!!」
「オレは自分のちっぽけなプライドを取り戻そうとしていただけだ」
「自分の保身の為に内容をごまかそうとしていた!!また彼に恥をかかせるところだったではないか」
「そんなことで修理屋の誇りが取り戻せるのか?」
「そもそも修理屋のメンツなんてくだらない」
「そんなプライドなんて捨ててしまえばいいんだ」
 
オレはこれでもかと自分を恥じた
 
「そもそもオレが今 修理屋として成立出来ているのはどうしてだ」
「オレにはセンスがない」
「いつも最初から上手く行ったことはない」
「周囲はセンスには優しいが、努力には厳しい」
「センスがあって最初から上手くいく人はこれでもかと褒め称える」
「しかし努力して出来るようになっても当たり前だと思われるだけだ」
「特に何の反応もない」
「それでも諦めずにコツコツ頑張ってきたんじゃないのか?」
「コツコツ頑張ってきたからこうして修理屋としてオレは一つの存在として今生きているんじゃないのか」
「困難をごまかして逃げるなんて絶対にしてはいけないのだ」
 
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オレはどうやら目が覚めた
 
困難から決して逃げるな!!
この会社の社員として彼と一緒に利用者の信頼を取り戻す為に戦うのだ!!
 
オレの中に確固たる決意が出来た!!
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しかし、どうしたものか?
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完全に修理するとなると、この修理はかなり難易度が高い
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それに今回は急ぎの案件だ
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コツコツ努力をする時間はないぞ
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どうする
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利用者が困られている
そして営業にこれ以上恥をかかせるわけにはいかない
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これが俺の限界なのか?
 
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その時
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何かのトリガーが発動された気がした 
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雷鳴が闇を照らす
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気付くとオレの手は青白い炎で包まれている
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スグルハンド発動だ!!
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続く
 
 
 
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